「セミナーリポート」
シリコンバレーに見るベンチャー投資とアメリカでのマルチメディア・トレンド

● シリコンバレーに見るベンチャー投資

●アメリカでのマルチメディア・トレンド

●通信業界の将来を見据えるための観点


昨今、日本の情報通信企業とシリコンバレーを中心としたアメリカの会社とのお付き合いが非常に増えてきています。このような事情を受けて1995年に、私どもNTTデータ通信はシリコンバレーに事務所を開設し、私が所長として赴任しました。そこで私の感じた、シリコンバレーでの代表的なベンチャー投資がどのようになっているのか、そして日本ではかすんでしまった感のあるマルチメディアが、アメリカではどのように形を変えて残ってきているのか、という点をお話しします。

● シリコンバレーに見るベンチャー投資
規制緩和が進み、コスト削減、生産性向上が求められるなど、今、産業界が大きく変わりつつあります。この変革の中でコンピュータ業界に与えた一番のインパクトは、アメリカにおけるベンチャー企業の登場だと思います。そこでまず、シリコンバレーを中心にベンチャー企業がどのようにできていくのかを見ていきます。

ベンチャー企業はいつも技術者が中心となっています。こんなデバイス、こんなソフトが面白いと考えた技術者達、スタンフォード大学、ゼロックス・パロアルト研究所といったところからたくさん産み出されています。たとえばサンマイクロシステムズやアドビといった会社は、このような大学、研究所から出てきた人たちが中心となってつくったものです。新しいアイデアは過去の経験とか、企業内でやっている仕事の延長線上で見つかることが多いようです。それがある程度ビジネスとして成り立つようなところまでアイデアを少しずつ育んでいくわけです。

アイデアができ上がると、ビジネスセンスを持った人たちの協力を得ていく必要があります。必ずしもアイデアだけではビジネスにならなくて、それをどうやってビジネスにしていくか、どうやってマーケットに受け入れてもらうか、というところのビジョンがなければ先に進めないのです。

資金援助に関しては、ベンチャー企業をつくる直前、つまり自分のアイデアの実現可能性を証明する作業までは、自分の家族や友人から調達することが多いようです。その次のレベルの作業資金となると、「エンジェル」と呼ばれる人たちから資金援助を受けるということがよくあります。この人たちの多くはベンチャー企業を起こして成功し、かなりのお金を手にした人たちですが、そのお金で自分たちに続く若い経営者を育てて行こうということで、ハイリスク・ハイリターンの資金援助をします。

ベンチャー企業の創設者はその製品をどのように売っていって、どのぐらい儲かるのかというビジネスプランをつくってベンチャーキャピタリストに売り込みます。そしてベンチャーキャピタリストがそれを受けて資金を調達するという構造になっています。

一般的に米国のベンチャーキャピタリストはお金を渡して後は頑張って下さい、というわけではなくて、企業経営まで面倒を見てくれます。ベンチャーキャピタリストは普通パートナー制で10人、少ないところでは5、6人でやっているわけですが、その人たちの中にベンチャー企業のアイデアを買ってくれる人たちがいます。この人がアイデアを売り込むということを手伝い、実際投資した後はその人が企業の経営をサポートしてくれるというわけです。

そこで、ベンチャーキャピタリストはどのような会社に投資するのかということですが、当然、ベンチャーキャピタリストは慈善事業をやっているわけではないので、人から預かったお金をいかにリスクを抑えて大きな利潤にするかというのが目的となります。

まず、1?3年のうちに具体化するビジネスプランであること。それから、マネジメントチームが小さな会社を大きくしたという経験・実績があること。そして、これから伸びるであろう市場や製品をよく理解・分析していること。最後に新しいビジネスのモデルを持っていること。このような条件を満たしている会社にベンチャーキャピタリストは好んで投資します。

以上のことからシリコンバレーにいるメリットとして、まずシリコンバレーには才能がたくさん集中しているということ、そしてベンチャー企業を理解しているシリコンバレーバンクのように、いろいろな形で資金を提供してくれるところがあるということがあげられます。このような点からシリコンバレーでは、他の地域に比べてベンチャーキャピタリストと優秀な才能がどんどん集まり、ベンチャー企業の成功率が非常に高くなっていると言えるのです。

●アメリカでのマルチメディア・トレンド
では、現在のアメリカにおけるマルチメディアの流れをベンチャー企業はどう思っているのでしょうか。 93年に情報スーパーハイウェイという構想が発表されましたが、たとえばCATVや電話業界が行った大規模なVODの実験のように、多くの実験は事実上失敗しました。しかし当時の失敗から、以下のようなことが重要であると分かりました。

一つはマルチメディア、あるいは双方向のインタラクティブサービスは、人々の生活を変える可能性がある。それからやはり広帯域のインフラは必要であるということです。そのほかでは、コンテンツをビジネスとして活用していくためには著作権を管理できるような仕掛けがないとだめだということ、決済を含めてセキュリティが非常に重要であるということも分かってきました。以上のことを踏まえて、まだ勝ちパターンにまでは至っていないものの、ビジネスモデルとなり得るウェブサービスの成功例がいくつか出てきました。

シカゴ、サンフランシスコといった大都市の周辺に拠点を持つピーポッド(Peapod)というオンラインスーパーマーケットがあります。Peapodはウェブ上で商品を頼むとそれを指定した時間に配達してきてくれるという一種の出前のサービスを行っているところで、約5万6千人の顧客を持ち1.8万店の商品を売ります(97年9月末現在)。その出前の特徴としては普通の商品をならべるだけでなく、いろいろ季節向けの特別な陳列を行いますし、青いバナナがいいとかよく熟したバナナがいいとか、商品の細かい指定ができます。さらにユーザの過去の購買情報に合わせて、たとえばペーパータオルを前に買った人に、しばらくしてからそろそろどうですか、というアドバイスをするなど、ユーザ一人一人に合わせていろいろ売り方を考えていくスーパーマーケットのサービスを提供しています。このようにユーザ一人一人に合わせて売り方をいろいろ考えていくということが、インターネットの場合はちょっとしたことで簡単にできます。これはインターネットを使ったビジネスの大きなメリットです。 また、インターネット上のウェブサイトにコミュニティと言われているものをつくって、そこで人と話せるような場を作ることによって売り上げを伸ばす、あるいは逆にユーザがどんなことを考えているのか、何を欲してそこへ来ているのかという情報を得るという動きもみられます。

最後にフェデックス(FedEx)ですが、彼らは従来のサービスにインターネットによる付加価値サービスを付け加えたことで更なる成功を収めた例です。仕組みとしては荷物の輸送行程をトラッキングできるサービスで、顧客番号と荷物の伝票番号を入れるとその荷物が今どこにあるかが分かります。私もアメリカと日本の間で荷物のやり取りをしていましたが、荷物がどこへ着いたというのが全部わかると、すごく安心するわけです。

●通信業界の将来を見据えるための観点
このように、アメリカのマルチメディアは形を変えてインターネットの周辺で続いていくと思いますが、アメリカのトレンドを見るときに私だったらこういうところを見るというのを最後に取り上げます。

まず、今いろいろなものに大きな影響を持っているのはインテルだと思っています。

インテルはメモリチップの時代に、日本企業との競合で苦労した経験から、自社製品の競争力を確保しかつ販路を拡大することに力を注いできました。インテルは自分の古い製品を駆逐しながら自身のビジネスを拡大してきました。この意味で、インテルは自らのプロセッサの領域を確保するために、メディア業界、コンピュータ業界が一体どこに向かっているのかということに非常に興味があるわけです。インテルの立場というのを理解しながら見ていると、世の中でどういう方向に動けばいいのかというのも見えてくるという意味では面白いと思っています。これはバージョンアップで成り立っているマイクロソフトにも言えることです

次にベンチャーキャピタリストが今どの分野に注目して、どのように全体として動こうとしているのかを見ることは大変意味があると思います。繰り返すと、彼らはベンチャー企業にお金を入れてその産業分野を大きくしてキャピタルゲインを得る、というビジネスをしています。たとえばマイクロソフトがひとり勝ちしてしまえば、彼らにとっては面白い戦場はなくなってしまうのです。最近の動きとして、マイクロソフトがひとり勝ちしてしまっては新しいビジネスチャンスがなくなるということで、シリコンバレーのベンチャー企業とベンチャーキャピタリストが一緒になってジャバファンドというものをつくりました。政治的な思惑も感じられますが、ジャバ周辺の環境を整え、また新しいビジネスチャンスができるようにしているわけです。

最後に私が最近注目しているのは、情報システムの中にいろいろな仕事のノウハウや業務の仕組みを埋め込んでいくこと、つまりナレッジマネジメントです。これは多くの大手コンサルタント会社が新しいビジネスとして注目しています。たとえば、コールセンタでこのような状況の時に、このようにお客様に対応すれば効果的なプロモーションにつながります、というスクリプトをその都度書き換えて、それを情報システムの中に埋め込んでいくという方法は、ナレッジマネジメントの考え方のひとつです。

まだ日本はこのようなレベルに達していないと思いますが、うまくやらないと日本とアメリカの差はこの分野、あるいはその周辺の分野でますます差がついてくるのではないかと思います。これは必ずしもツールではなく、こういう仕事の仕方はできるのではないかということですが、これからよく考えていかなければいけないと思っています。



NTTデータ通信株式会社 技術開発本部
マルチメディア技術センタ所長 山田伸一