i2テクノロジーズ・ジャパン株式会社 代表取締役社長/ 渡辺邦昭
また顧客ニーズの多様化が進み、製品のライフサイクルが非常に短くなったという点も見逃せません。ビジネスが右肩上がりで、基本的に市場がインフレのときは、在庫を持っていてもいずれ売れてしまうので大きな問題にはなりません。しかし製品のライフサイクルが短くなっている現在、今まで製品で持っていた在庫は半製品に、半製品で持っていた在庫は部品に、そして部品の在庫はできるだけ持たないように、というように在庫のレベルをひとつずつ落とし、全体の資産効率を上げようというニーズが生まれます。つまり、サプライチェーン全体を最適化することによって不良在庫を持たないようにするという考えです。たとえばパソコンは年4回新製品が出ますが、1週間に1%ずつ値段が下がると言われています。サプライチェーンの中に旧型製品の在庫を抱えると、新製品発表のタイミングを他社に先取りされてしまうのです。
鶴保●SCMは企業組織やマーケットが国境の垣根を越え、さらに顧客ニーズが激しく変化していることで、その対策として普及してきたのですね。しかし日本の産業はグローバル化し、製品のライフサイクルも非常に短くなっているにもかかわらず、SCMの導入が遅れました。
渡辺■80年代の日本企業はSCMを意識しなくても、たまっていた在庫を他の売上とプロフィットでカバーしていたので、資産効率を上げることを考える必要性がほとんどありませんでした。これが日本にSCMが入ってくるのが遅れた一番大きな理由です。
鶴保●すると、現在の日本が直面している不景気でデフレ経済にあるマーケットでは、不良在庫を持たず、資産効率を上げるためにサプライチェーンの最適化の必要性があるのですね。
渡辺■そうです。80年代は資産が潤沢にあったので、財務効率を考えるニーズはそれほどありませんでした。しかし不況から脱しきれない現在、銀行の貸し渋りがあり、自由に資金を借りられません。したがってキャッシュフローをしっかりと管理しなければ、自社の投資ができない状況になります。営業活動で産み出した資金で再投資ができるような経営モデルをつくらなければ、企業として生存していけないということを、日本の企業もここ2年ぐらいで真剣に考えざるをえなくなってきたのです。
渡辺■ジャストインタイムやクイックレスポンスといった考え方は、基本的にSCMの中核になるコンセプトのひとつです。ジャストインタイムは、ある工程や工場における在庫を最小化するという考え方ですが、いまや製品の原価を考えると、工場から出てくる原価は全体の3分の1でしかありません。残り3分の2はサプライチェーンの中で発生するコストなのです。つまり輸送や保管、在庫処分といったサプライチェーンの中で発生するコストが、工場で発生する原価の倍あるのです。クイックレスポンスも同様に、あるプロセスにおける部分最適の考えに基づいており、それをサプライチェーン全体に普及させたという点がSCMです。
鶴保●アメリカの物理学者ゴールドラット博士によって確立された制約理論(TOC:TheoryofConstraints)はSCMの中核の考えですが、目標達成の障害になっている制約条件を重点的に改善するフォーカシングにポイントが置かれています。
渡辺■たとえばパソコンを作るためには数百の部品が必要ですが、この中で本当にネックになるものは3つか4つです。制約理論は、この数百の部品を同レベルで管理するのではなく、最大のネックになる3つか4つの部品だけを集中的に管理し、最大限に有効活用できるような生産計画と工程計画を立てることが、売上を最大限にするという考えです。
鶴保●日本では、従来規制の強かった分野、特に、流通、放送・通信、金融の分野で規制緩和が進行中です。さらに世の中が物質文化から情報文化への変換点にさしかかっているように思います。SCMの成功事例として、ほぼ100%直販で製品を提供しているデル・コンピュータが度々引き合いに出されますが、SCMは業界や業種、業態を問わず、全てのビジネスモデルに適用できる仕組みですね。
渡辺■その通りです。既にアメリカでは流通、小売、サービス、ファイナンスといった分野でもサプライチェーンモデルの考え方が浸透しています。
鶴保●「SO−」第8号(前回号)で「コンピュータテレフォニーの新潮流」という、企業戦略としてコールセンタがお客様のデータを集積し、企業がそのデータをベースにした情報を発信する場所になっているという特集を組みました。お客様のデマンドを拾うには、たとえばコールセンタのようなフロントサイドの強化が重要な項目のひとつになると思います。コールセンタをはじめとしたフロントサイドでお客様のデマンドを拾ってきたときに、それをSCMの中に組み込むのにいろいろな方法がありそうですね。
渡辺■当社では製品、市場、時間という3つの軸に区切られたデマンド・プランナーというソフトウェアの中に組み込みます。様々な角度からデマンドポイントを検証することにより、まずそのデマンドが当初の事業計画を満たしているかが分かります。当初のデマンド計画が事業計画を満たしていれば、それに応じた供給計画は事業計画どおりでいいということが分かります。デマンド計画が事業計画よりも下だったらプロモーションを打つとか、逆に上だったら供給側をどう準備するかということを、デマンド計画とサプライチェーン・プランニングの間で計画します。
鶴保●これまでのビジネスモデルは自分たちで計画したものを一方的に開発、製造し、それをサプライチェーンに押し出すというプッシュ型でしたが、SCMのビジネスモデルはプル型の考えに基づいているということですね。
21世紀に生き残りをかけて、日本の企業の体質変革は必須です。日本でも業務の可視化とか上流工程の強化に取り組んでいる企業が数多くあります。このような時、SCMのような計画系の仕組みに着手する前の段階として、必要なデマンドや在庫といったデータそのものの精度を高くする必要がありますね。
渡辺■SCMをはじめとした計画系の仕組みは組織の中で頭脳にあたりますが、当然それをサポートする業務系の仕組みとの連動も大切になります。たとえばデータの精度やタイミングといったことが非常に重要になります。
CALSやECを例に挙げると、計画系の仕組みと業務系の仕組みの違いを明確に分けることは難しいのです。マネジメントサイクルでplan-do-seeという考え方がありますが、今までのコンピュータはdoのプロセスを実行してきました。doのシステムとは業務系の仕組みのことです。一方、planとseeのプロセスをコンピュータテクノロジを使ってシステム化していこうという考えが計画系の仕組みです。CALSやECの場合は、plan-do-seeの要素は含みますが部分最適を目指しており、サプライチェーンのように受注から販売まで全てのプロセスの最適化を目指したものではないという意味で、計画系の仕組みとは若干違うものと考えています。
渡辺■当社は、SCMに基づくシステム構築に際して発生する各領域の専門の皆様と提携関係を持たせていただきたいと考えております。私どもは最初のライセンスの提供とモデリングの仕事に特化し、それ以外はSIやコンサルティング、ソフトウェアの会社との提携を進めるという事業戦略を立てています。
鶴保●私どもSI会社では、データベース/データウェアハウス、ネットワークやマルチメディアといった領域のソフトウェア開発を通してIT技術のスキルを付けてきています。SCMにおけるエンジニアは、IT技術以外の特別なスキルが要求されるのでしょうか。
渡辺■現在日本には70万人ほどIT技術者がいると言われていますが、そのほとんどはトランザクション系、つまり業務系のプロです。しかしSCMは計画系の仕組みなので、IT技術だけでなくマネジメントのスキルを持つことが必要です。どういうことかというと、計画系の仕組みの場合には何のためにそれを導入するのかという戦略、KPI(KeyPerformanceIndex)と定義しますが、それを明確にする必要があるのです。お客様の課題とニーズを顕在化させることで、はじめて計画系の仕組みを中核としてシステム構築するのか、あるいは業務系の仕組みで対応するのかという実際のシステムのプランニングに取りかかるのです。
渡辺■同感です。いまや顧客がクオリティの高い部品や製品をサプライヤに求めるのは大前提になっています。何が重要なのかというと納期とコストなのです。顧客の納期とコストの要求に応じられなければ、先程の製造業の例では海外で生産することのメリットの方が高いかもしれません。
しかし現在ではさらに進んで、サプライヤが顧客に要求された品質の部品や製品を、納期どおりに契約した値段で納めるだけでは不十分になりました。顧客がサプライヤに要求するのは、明確な調達計画と生産計画なのです。それがなければ発注しません、という時代に変わってきたのです。
鶴保●アメリカで最近成功している企業は、金融業や通信業といった頭脳が要求される計画系の業種に移行してきていますが、日本はこの分野が非常に遅れています。このままでは、高度の知識サービス産業が育たない産業構造に日本はなっていってしまうのではないかと危惧しています。
渡辺■当社が今まで養ってきた専門性というのはIT技術に置き換えられます。当社はテクノロジプロバイダであり、最も高度のライセンスをつくって販売するという立場です。その時に御社のようなSIを得意とする企業と提携し、お客様により満足していただけるソリューションを提供していくことが、大きなバリューになると考えています。
鶴保●当社はCTIをはじめとしたトランザクション系の仕組みは得意分野ですので、これからは計画系の仕組みにも力を入れ、計画系のモデリングやプランニングで先端をいく御社のような企業との提携も考え、お客様のデマンドに応えたソリューションを提供していきたいと考えております。
──本日はどうもありがとうございました。
鶴保征城 /NTTソフトウェア株式会社 代表取締役社長
●アメリカと日本におけるSCM普及の背景
●SCMの中核となる制約理論、同時並行計画とその汎用性
●業務系の仕組みと計画系の仕組み
●他社との提携戦略
●グローバルなメガコンペティションを生き抜くには
アメリカと日本におけるSCM普及の背景
鶴保●最近、日本の産業界全般で、企業活動の中での受注、生産、輸送、販売にいたるまでのプロセス全体をダイナミックに最適化させるというサプライチェーン・マネジメント(SCM)の導入と実践が盛んに行われています。情報誌や書店でもSCMの記事や単行本があふれています。日本では、戦後製造部門の品質向上・生産性向上面での進歩で、80年代に経済大国を実現しましたが、90年代はアメリカ経済が復活し現在も好景気を継続しています。このSCMもアメリカ発の技術ですね。
渡辺■アメリカでSCMが最初に普及した一番の理由は、国土が広いということにあります。たとえば東海岸の企業が西海岸で自社製品を販売するとします。まず製品を作るために部品を調達し、工場で実際に製造します。そして製品をシカゴまでトラックで運んで列車に積み替えをし西海岸へ輸送、西海岸の倉庫に保管します。最終的に小売店で必要な数量の製品を届け、はじめて販売することができます。このような一連のプロセスの最適化を怠ると、最終段階での売上をあげるために全てのプロセスで在庫を持つことになり、最終的に利益が上がらなくなります。これを背景に生まれたのがSCMで、アメリカにおける7、8年前からの状況です。
SCMによりキャッシュフローが改善されると、自己資産でビジネスを進めることで銀行の貸し渋り対策にもなりますし、最終的なプロフィットに影響を与える在庫維持費用をはじめとしたコストをカバーすることができ、資産のより有効な活用を促します。この意味で、サプライチェーンの効率化を図り生き残っていこうとする日本企業のニーズが、昨年中頃までは知識を吸収するという段階で止まっていたものが、昨年後半以降は実際の需要として強くなってきました。
SCMの中核となる制約理論、同時並行計画とその汎用性
鶴保●在庫を減らすという意味では、日本でも在庫を持たずに指定時間にぴたりとあわせて部品を納入させるジャストインタイムや、POSシステムと結合させることによって売れた製品の迅速な補充を実現させるクイックレスポンスという方式を導入しています。
さらに、同時並行計画という考え方がSCMでは重要になってきます。サプライチェーンでは納期、値段、数量の三要素で制約要因が変動します。たとえば数量が増えることによって部品の調達ができないというケースがありますし、輸送が間に合わないということもあります。これら3つの制約要因を1個固定して他の2つを最適化し、さらに別の1個を固定して他の2つを最適化するということを、同時並行で何千万回繰り返しながら、もっとも短時間で最適解を出すという考えです。
たとえば金融業界に関しては、アメリカのように商品の多様化が進んだマーケットでは、お客様のニーズに基づいてハイリスク・ハイリターンの商品からローリスク・ローリターンの商品まで幅広い品揃えがあります。SCMを応用することによって、お客様にとって最適なポートフォリオを最短時間で組み合わせ、どの程度リターンが期待できるかということをすぐにお知らせし、必要であればその場で注文を発行するというサービスがアメリカではスタートしています。このようなファイナンシャルサービス・オプティマイゼーションは、日本でも来年以降適用されていくことでしょう。
業務系の仕組みと計画系の仕組み
鶴保●流通や製造業といった業種では、SCMが早い段階で適用されてきました。代表的な例はウォルマートやデルコンピュータです。しかし最近ではアメリカを中心として、金融や通信業といった領域にまでSCMが適用されてきています。このことで、SCMの仕組みそのものも変化してきているのでしょうか。
渡辺■サプライチェーンの基本的な考え方は、先ほど話題になった制約理論と同時並行計画に基づいていますが、デマンドの変更に対して最も効率的な調達の仕組みをどう計画するかということが全体最適化のポイントになります。
デマンドポイントを最終消費者から拾ってくるのが理想的には望ましいのですが、たとえばそれが販社や自社の営業部門でもいいわけです。拾ってくるデマンドポイントを自社のビジネスモデルに合わせ、エンドユーザに近づけていくことが、大事なのです。
他社との提携戦略
鶴保●SCMは計画系の仕組みということですが、お客様のデマンドを掴むためのEDIやCTIをはじめとした業務系の仕組み、またトータルなシステムを構築するためのシステムインテグレーションといった領域に強い他社との提携が必要になってくると思います。御社では提携戦略をどのようにお考えですか。
SCMでは、当社のビジネスドメインであるライセンスの提供、そしてサプライチェーンモデルの構築が必要ですが、その次にSIという作業が発生します。計画系の仕組みは業務系からのデータをベースとするので、業務系のデータとのインテグレーションが必要になってきます。
SIに関しては、SI会社の皆様にSIパートナープログラムを提供しております。これは、SI会社のエンジニアの方が当社の講習会を約1ヵ月無料で受講し、その後3ヵ月から6ヵ月間、当社のOJTで一緒にプロジェクトに参加するというものです。
グローバルなメガコンペティションを生き抜くには
鶴保●製造業を例に挙げると、日本企業はグローバルなメガコンペティションの中で生存競争にしのぎを削っています。メガコンペティションの中ではあらゆるプロセスにおいてコストが高い日本で全てを製造する必要性や有利さがあるとは言えません。今後、グローバルな時代に生き残っていくためには、日本企業は製造コストの安い外国では代替できないような、頭脳が要求される領域に特化していかなければならないと思います。
またビジネスのグローバル化に関しては、日本の大企業がグローバル企業のサプライチェーンに組み込まれ、ビジネスの中身が全部下請けという時代になってきているという点も見逃せません。つまり、いかに効率的なサプライチェーンの仕組みを構築するかではなく、いかにお客様のニーズに応えたマネジメントモデルを形成できるかが、この時代を生き抜くためのキーとなっているのです。
