これはANA グループの経営理念である。ANA が常に「人命」というもっとも尊いものを預かっていることの証である。お客様には泰然自若として安心感を見せながら、その裏側では最大限の緊張を持ちつづける、それがANA である。
ミスを犯さない、100%確実な環境というのは、人力だけで構築することは不可能で、IT の力を借りることになる。当然ANA は約20 年前という非常に早い段階からIT を導入した、いわば先駆的事例だといえるが、そのIT 推進の一翼を担う氏川氏は、自社のシステムに問題意識をもっていた。まもなく2000 年を迎えようとする頃、あのY2K 対策でさまざまな企業が頭を悩ませていた時期のことである。
「私は、飛行機を安全に効率よく運航させるための運航管理系と呼ばれる社内システムを担当しています。このシステムは、大きく3 つに分けられます。1 つ目は、航行中の飛行機の位置や運航状況を管理するフライトインフォメーション系システム。2 つ目は、フライト毎の気象条件や航路を管理する飛行計画系システム。そして3 つ目が、パイロットや客室乗務員の資格・スケジュールを管理する乗務員管理系システムです。これらのシステムを、当社は20 年の歳月をかけ、大型のメインフレームを中心に、業務毎にサブシステムを開発してきました。その結果、28 個にもなったシステム間の関係がきわめて複雑になり、データの処理やその変更に多大なコストと労力・時間がかかる状況になっていました」。
ANA のシステムはまさにミッションクリティカル。24 時間・365 日停止することは許されず、常に高い安定性・信頼性を要求される。
社内システムのトラブルが原因で社内ユーザーへのサービスの質が低下すると、お客様に提供するサービスにまで影響がでて、営業的な損失を招いてしまう。そのため、運用に当たっては、細心の注意をもってデータを扱うことが要求されるが、「28 個ものシステムが共存していると、業務毎に異なる端末を使用しなければならないなど、業務の効率化に制約がでていました。これでは、企業競争力を高める上でも支障となりかねません。そこで浮上したのが、既存システムの複雑さを解消するという課題でした」。
課題は、こうした運用面だけではない。氏川氏はさらに続ける。「システム導入から20 年ですから、老朽化の問題と常に戦わなければなりません。しかし、従来どおりメインフレームを基幹にしていては、メンテナンスにも買い替えにも非常に高コストです。しかも、時代はサーバー系に移行し、メインフレームを扱う技術者も減っています。これでは将来性にも不安がつきまといます。メインフレームの堅牢性は他には変えられないメリットですから、このままメインフレームを存続させるのかサーバー系のオープンシステムに移行すべきか、非常に難しい課題だと感じました」。
ANA だけでなく、メインフレームを採用している企業では、同様の悩みを抱えているケースが多い。既存のお客様にご迷惑をかけないことを前提にするなら、旧来のシステムを維持し、その堅牢性を最優先するのは当然の選択だといえるだろう。
しかし、ANA はグループの理念にもあるように、安心や信頼を基礎として、その上の顧客満足を実現する企業である。とするなら、将来性の見えないシステムを使いつづけることは、お客様の利益にはなりえないのである。
こうして、2001 年、氏川氏はシステムのリニューアルを共同で担当する全日空システム企画株式会社の桑野氏とともに、サーバーを基軸にしたオープンシステムに移行する基本方針をまとめた。
「メインフレームの場合は、新しいアプリケーションは一からすべて手作りになりますが、ミスの確率もそれだけ高くなります。一方、オープン化すれば、すでに市場評価を得ているツール、パッケージが多数あり、それらを選択できます。ポイントは、サーバーでメインフレーム並みの高い性能を発揮できるのか、信頼性の面で問題はないか、でしたが、さまざまな事例からこれらはすでにクリアされているといえます。トータルに見て、もうそろそろサーバーに移行してもいい時期だと判断しました」(桑野氏)。
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