
IFRSの本質は、世界規模でのルールの統一ということに尽きます。そこから得られるメリットはただ1つ、企業間の比較可能性の向上と言っていいでしょう。なぜ、比較可能性を向上させる必要があるのかといえば、それは証券市場がボーダレスになったからです。開かれた市場である限り、あらゆる国の人はあらゆる国の企業の株を自由に買うことができる現在において、財務情報の作成ルールは同じである方がいいに決まっています。
「IFRSによって財務情報がより合理的になるというメリットもある」という主張もあるかもしれませんが、商慣行も文化的背景も違う複数の国において、唯一の合理的な会計基準が存在すると考えるのは幻想です。例えば、金利のやり取りを認めていないイスラム文化圏において、金利の概念をベースに算定する公正価値に一体どれだけの合理性があるでしょうか。
ボーダレスな市場に参加する上場企業は、同じルールに従いましょうということが最大の意義であり、IFRSの本質です。
では、比較可能性の向上というメリットを享受するのは誰でしょうか。それは投資者です。IFRSの基準書も、多数いるステークホルダーの中で投資者に対する情報提供を最重要視していることを明言しています。
そのことはIFRSにおける利益の定義にも現れています。日本基準においては、利益はP/Lで計算されるものであり、それがB/Sの純資産を増加させると考えます。ところが、IFRSにおいては、資産・負債の差額である純資産の変動額が利益だと考えます。しかも、資産と負債は可能な限り公正価値で評価します。つまり、IFRSが重視しているのは、その時々の純資産の公正価値、すなわち株主の実質的持分の算定にあるように見えます。
IFRSがやりたいことは、利益の算定よりも株主価値の算定、さらにはそれを発行済株式数で割った株価の算定なのではないでしょうか。実際、IFRSの個別規定にはファイナンス理論の影響が至るところに見られます。
投資家のためだけにIFRSを適用しなければならないとしたら、これから払うであろう多大な労力はあまりにも大きすぎます。どうせやるなら、内部の経営管理にも積極的に活かすことを考えるべきです。
IFRSの唯一のメリットは比較可能性の向上ですから、そのメリットを経営管理においても享受しない手はありません。すなわち、IFRSをグローバル・グループ・マネジメントのインフラとするのです。グローバルに展開している企業においては、グループ会社の会計基準が各国でバラバラのままでは、同じ土俵で業績を評価することすらできませんから、そのベースをIFRSでそろえるのです。
IFRSをグループ全体に適用するためには、会計方針や業務プロセスなどの統一化・標準化も必要になってきます。IFRSを単なる会計基準の統一的なインフラだけにとどめず、業務標準化を推進するドライバとして「一石二鳥」の活用をすべきです。
ただし、IFRSの財務諸表はあくまでも投資者のためにできていますから、そのまま内部の経営管理に使えるものではありません。売上高や各種利益の意味も変わります。経営管理に使えるものにするためには、IFRSというインフラをベースにしつつ、各社独自の経理管理方法に沿った管理会計の仕組みを再構築することが非常に重要になります。

IFRS適用を、単なる制度的対応だけで済ますのか、グローバル・グループ・マネジメントのインフラとして位置づけるのかは大きな分かれ道です。それぞれの会社がどれだけのビジョンを持って、どこまで前向きに踏み込んだ対応をするつもりがあるのか。細かい各論を追い掛け回す前に、それを明確にすることが先決です。
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