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ICTの潮流 / no.4
見える化
 
2008年10月

NEW THINKING:「見える化」で見えてきたもの -「より良い見える化」のためのヒントと提言-

教授・経営コンサルタント :遠藤 功氏「見える」という観点から企業経営についてまとめた著書『見える化』の刊行から3年。その間、「見える化」は企業力強化の中核コンセプトとして広まったが、 著者である遠藤氏は「まだまだ本質は理解されていないのではないか」と語る。「見える化」に最も精通した遠藤氏に「より良い見える化」を実践するためのアドバイスを伺った。

「見える化」(*1) は、問題解決を加速させるための手法

教授・経営コンサルタント :教授・経営コンサルタント :遠藤 功氏
遠藤 功  Isao Endo
早稲田大学ビジネススクール教授。株式会社ローランド・ベルガー会長。三菱電機株式会社、米系戦略コンサルティング会社を経て現職に。早稲田大学ビジネススクールでは、経営戦略論、オペレーション戦略論を担当し、現場力の実践的研究を行っている。また欧州系最大の戦略コンサルティング・ファームであるローランド・ベルガーの日本法人会長として経営コンサルティングにも従事し、戦略策定のみならず実行支援を伴った「結果の出る」コンサルティングとして高い評価を得ている。主な著書に現場力三部作である『現場力を鍛える』、『見える化』、『ねばちっこい経営』(いずれも東洋経済新報社)や『MBA オペレーション戦略』(ダイヤモンド社)、『企業経営入門』(日本経済新聞社)などがある。

さまざまな企業に伺って、「見える化」の状況を見る機会があります。「見える化」という言葉は非常に浸透し、多くの企業で取り組まれてはいるのですが、残念ながら表面的な対応で終わってしまっているケースも多く見受けられます。できることから始めるのは大切ですが、「見える化」を目的化しては本末転倒になります。「見える化」は、あくまでも問題を顕在化させ、問題解決を加速させる手法です

どんな企業にも大小さまざまな問題が起こっています。それは現場だけでなく、ミドル層でもトップでも同様です。そうしたさまざまな問題を迅速に解決することができる組織が強い企業になれるのです。「見える化」に取り組む際、その本質を理解して行うのとそうでない場合とでは、当然ながら効果はまったく違います。「見える化」を目的化してしまうと、あまり効果もあがらず、一過性の施策で終わってしまうのではないでしょうか。それが私が一番危惧するところです。

たとえば、トヨタ自動車(以下トヨタ)では50年間継続して「カイゼン」活動を行ってきていますが、トヨタでは「見える化」をツールとして問題解決のプロセスの中に実に効果的に織り交ぜています。トヨタが数千億円ものコストダウンを実現し、世界最強の企業と呼ばれるのは、年間61万件もの「カイゼン」を地道にやっているからです。また「カイゼン」は生産現場だけではなく、販売や開発の現場でも同様に行われています。ですから、トヨタはモノづくりが強いというよりはむしろ「カイゼン」という能力が非常に鍛え上げられており、そのビジネスモデルそのものが強いといえるのです。

 「見える化」による問題解決の加速は、一朝一夕でできるものではありません。短絡的な道具ではなく、5年、10年かけて自分たちの問題解決能力や改善能力を高めていくことを目指すべきで、そう簡単に効果があがるものではありません。これは、ぜひ覚えておいていただきたいポイントです。即効性を求めるくらいなら、やらないほうが賢明ともいえます(笑)。
中長期的な観点で問題解決能力と改善能力を高めていく姿勢が重要で、即座に生産性が上がるとか、コストが下がるというものではないことを認識してください。あくまでも漢方療法であり、じわじわと企業体質を改善・向上させるものなので、5年後、10年後に体質が強くなっていることを信じて取り組むしかありません。トヨタが世界No.1の自動車メーカーになれたのは、何か魔法の杖があったわけではなく、毎日コツコツと全員で「カイゼン」を行ってきたからです。

また取り組む姿勢としては、組織全体で実行すべきです。何かひとつだけ断片的に問題や課題が見えたとしても、組織としての問題解決力がそう高まるものではないからです。そのためには、さまざまな部署でさまざまな問題が見える仕組みを整える必要があります。そして、問題解決はそれぞれの階層でやらなければなりません。製造現場では製造現場の問題を、ミドル層はミドル層の問題を、経営トップは経営トップの問題をそれぞれ現場で解決します。全体の仕組みづくりは誰かがやる必要がありますが、全員が改善活動と「見える化」の本質を理解し、皆で知恵を絞って地道に継続することが大切です。

*1:「見える化」 
トヨタ自動車が生み出した現場管理上の手法のひとつ。
業務の中で異常を顕在化させる仕組みを「見える化」と呼び、「アンドン」はその代表的なツール。ほぼ同時期に管理会計分野で「可視化」が注目され、「見える化」元来の意味であったPDCAサイクルを含んだ問題解決のための手法から、業務プロセスなどの数値化や指標化、顧客ニーズの可視化も含めた経営情報全体までを包括する取り組みへとその意味が広がっている。