情報誌・コラム|Publish・Column

ICTの潮流 / no.6
内部統制
 
2009年7月

NEW THINKING: 「勝ち残るリーダーの資質と行動」-リーダー自らが参加すれば、業績もコンプライアンスも強化できる -

作家 :江上 剛 氏依然として不透明な経済環境が続くなか、社会の信頼を得るために経営者はどのよう に企業の透明性を高めつつ、利益をあげる仕組みを作っていけばよいのだろうか。今 回は「危機の時こそリーダーシップが大切だ」と語る人気作家の江上氏に、今の時代の リーダーに求められる資質論を伺った。 
(※この取材は2009年5月13日に行われたものです。記事はその当時の経済状況を反映したものです。)

 

NEW THINKING

内部統制強化を自分の問題として自覚する

作家 :江上 剛 氏
江上 剛 Go Egami
1954年生まれ。1977年早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、旧第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。梅田支店、芝支店に勤務した後、総括部をはじめ業務企画部、人事部、広報部、行内業務監査室を経て、高田馬場支店、築地支店の各支店長を歴任。1997年の広報部勤務の際には第一勧銀総会屋事件に遭遇し、次長として混乱収拾に尽力。その後のコンプライアンス体制構築に大きな役割を果たす。また、銀行員としての傍ら、2002年『非情銀行』で小説家デビューし、2003年3月の退行後、作家として本格的に活動。経済小説の枠にとらわれない新しい金融エンタテイメントを描き、『失格社員』(新潮社)はベストセラーに。最新刊に『いつもそばにいるよ』(実業之日本社)がある。

個人情報の流出や不正融資、食品偽装をはじめとする企業の不祥事に関する報道が後を絶ちません。多くの経営者が不祥事防止に苦心するなか、悲観的な言い方をするようですが、本来、社員による不正行為を完全に防ぐことは不可能なのです。たとえば画期的な新技術や新製品を開発したとしましょう。その成果が会社から正当に評価されなければ、開発責任者は競合他社へ売り込みたいと考えるかもしれません。

どんな企業でも、権限を有する管理職が不正を起こせば、それを防ぐことは困難です。また、そもそも不正を行う側(この場合でいう開発責任者)には、それを行うだけの個人的な理由があるものです。それに対して、不正から企業を守ろうとする側は往々にして彼らほど切羽詰まった状況にあるわけではありませんから、未然防止といっても、どうしても対応が後手にまわってしまいがちなのです。

そして、いざ大きな不祥事が生じると、マスコミなどから経営責任を追求され、その時の経営陣はすべて辞任するケースが一般的です。一見したところ潔く映るこの対応ですが、そこには大きな問題が潜んでいます。なぜなら、不祥事が起きてしまった後のコンプライアンス強化には、「その不祥事=負の遺産」をどれだけ社内で自分たちの血肉として伝えられるかが重要になってくるからです。しかし日本人は、その国民性も影響してか、「みそぎ」が終わるとみんなそのことを忘れてしまうのです。

負の遺産を継承するためにも、できれば事業報告書やアニュアルレポートなどにその不祥事と実際に行った対応策までをしっかりと記載して残すべきです。ところが不祥事後に新しく交代した経営陣は、旧経営陣時代の出来事をわざわざ公式文書として残すことに不快感を表すことが多いようです。しかし、負の遺産を教訓として後に受け継ぐことなくして、企業体質が変わることはありません。それでは、同じような不祥事が再発するという最悪の事態すら起こりかねないのです。

ですから、まず何よりも、経営者は内部統制強化を自分の問題として強く自覚するべきです。そして、経営判断を行うに際しては、いかに最適な情報が上がってくるかがポイントとなりますので、内部統制状況や経営状態など、情報の収集を人任せにしないことです。

丹羽宇一郎氏(*1)は伊藤忠商事の社長時代に、当時抱えていた約4,000億円もの不良資産の一括処理を行ったことで有名です。彼は会社を建て直すために、社員の意見やアイデアをダイレクトにメールで集めました。そして、それら全てに自ら目を通した上で、会社としての実情にマッチした改革案を打ち出したため、問題解決は早まりました。ところが、しばらくすると社員からのメールが非常に少なくなった。なぜかと思い調べてみると、いつの間にか中間管理職の者がメールを閲覧し、整理していたそうなのです。企業が非常時から平時に戻ると、組織のヒエラルキーが働き、こうしたことがよく起こります。

情報は生き物。リーダーが必要な情報をリアルタイムに入手することは非常に重要ですので、情報の流通経路の確保には経営者自身がしっかりと留意されたほうが良いと思います。

【用語注釈】

  *1:丹羽 宇一郎
1939年名古屋市生まれ。名古屋大学法学部卒。1998年、伊藤忠商事代表取締役社長に就任。1999年度に巨額の不良資産を一括処理することに成功し、その翌年に同社史上最高益を計上して世間を驚かせた。社長就任後も一般社員の感覚を失わないために電車通勤を貫き、2001年には経済広報センター主催の優秀経営者賞をカルロス・ゴーン氏とともに受賞。2004年に同社代表取締役会長に就任し今に至る。
コラム:「サブプライムローンの問題と日本の金融機関が果たすべき役割」

このたびのサブプライムローン問題を端緒とした世界同時不況によって、米国のほとんどの投資銀行がFRB(連邦準備制度)の管理下に置かれるといった異常事態に陥りました。結局、このような結果を招いた理由は、「強欲な資本主義」と揶揄されるように、詐欺的な金融商品を際限なく売り続けたことに尽きると私は思っています。
一番の問題点は、金融商品を売る人たちの成績評価方法です。成績を上げるほど収入が増えるボーナス制で、驚くことに破綻しても責任を取らなくてよい仕組みになっていました。米国ではエンロン事件を契機にSOX法が施行され、金融業界の内部統制も厳しくなっていたはずです。それでもこのような金融危機を招いたのですから、根本的にどこかおかしいところがあったのではないでしょうか。

僕は以前からコラムでも書いているのですが、そうした管理については米国よりも日本の金融機関のほうがよほどしっかりしています。ですから財務省や政府は、「日本ではこのように金融機関を管理・監督しているから、今回の危機においても問題が顕著化しなかったのだ」とアピールすべきですし、国際金融の舞台でそのノウハウを売り込む大きなチャンスでした。それを一切しないままに、逆にG-20では欧米が新しい金融ルールを作ろうとしており、その新たなルールに基づいて提示された自己資本比率に日本の金融機関は慌てています。
欧米には、失敗したらルールを変えてしまえばよいといった考え方をする悪癖があります。今回も米国の金融機関に反省を促すだけでなく、国際的に通用するルールを日本が提案し、リードしていくべきです。

また、世界的な危機に陥った理由は、何よりも企業が信頼を喪失したことにあるのではないでしょうか。いま、世界の企業はいかに失った信頼を取り戻そうか悩んでいるところですが、日本企業は古くからお客様の信頼を最も大切にしてきました。

たとえば、昔からずっと同じ饅頭をつくり続けているお店が今でも人気だったりという例がありますが、これは、儲けよりもお客様の信頼を重要視する企業姿勢を受け継いでいるからこそです。たとえそれが法律には書いていないことでも、お客様に対してしっかりとした責任感を持ち、それにしたがって倫理的に行動する。これこそがコンプライアンスのあるべき姿勢ですし、この日本ならではの信頼の姿こそがいま欧米に提示できる日本のブランド力ではないでしょうか。日本はもっと自信を持って、世界に自分たちをアピールするべきです。

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