情報誌・コラム|Publish・Column

ICTの潮流 / no.8
Cloud Computing
 
2010年3月

NEW THINKING:「クラウドの時代」- 産業の枠を超えた協働の創出を予感する -

谷脇 康彦 氏 クラウドコンピューティングによって、ICT 分野ではパラダイムシフトが起こりつつある。ネット上に存在するICT 資源を活用するその手法は、ハードウェアやソフトウェアを所有せず、必要な時に必要な分だけを利用できる新しいサービスを生んだ。話題の多いクラウドだが、その実情や今後の展望について、総務省情報通信国際戦略局情報通信政策課長の谷脇氏に伺った。
(※この取材は2010年2月16日に行われたものです。記事はその当時の経済・技術状況を反映したものです。)

 

NEW THINKING

クラウドの本質とそのメリットとは

谷脇 康彦 氏
谷脇 康彦 Yasuhiko Taniwaki
総務省情報通信国際戦略局情報通信政策課長。1984年に郵政省(現総務省)に入省後、在パリOECD事務局ICCP課をはじめ郵政大臣秘書官、在米日本大使館ICT 政策担当参事官などを歴任し、2008年7月より現職。ICT 政策全体の総括、通信・放送の融合・連携に対応した法体系の検討やICT分野の国際競争力向上に向けた施策展開などを担当している。著書に『世界一不思議な日本のケータイ』、『インターネットは誰のものか』などがある。

クラウドサービスとは、データセンタに蓄積されたICT資源をサービスとしてネットワークを介してユーザへ提供するものです。そのため、ユーザは自らICT資源を調達・運用する必要がなく、大幅なコスト削減が可能だといわれています。また、サービス提供者が所有するICT資源をそのまま活用するため、システムやサーバを最初から構築する必要もないので、短期間で導入・利用でき、必要に応じて柔軟に拡張や利用停止ができるといった特徴があります。

我が国は、世界で最も低廉な価格でブロードバンドを利用できる環境が整っており、クラウドは、ブロードバンド環境さえあれば地理的な制限なく利用できます。そこで、クラウドをきっかけにICT利活用を徹底的に進められるのではないか、と昨年7月に総務省において「スマート・クラウド研究会」が発足し、議論を重ねているところです。

クラウドの本質はさまざまな知識・情報を多くの人が共有できる点にあり、それをどう活かし「知識情報社会」を実現していくかが最大のテーマです。そこで我々は、企業や産業の枠を超えて、社会システム全体の高度化と効率化を実現するという観点から、次世代のクラウドサービス(スマートクラウドサービス)の開発・普及を促進することが重要だと考えています。

今後のクラウドサービスの普及によって、中小企業やベンチャー企業における事業の効率化や、新規事業の立ち上げに関係するシステム整備などが低コストで実現可能になり、日本経済の活性化を牽引するものと期待できます。これまで協業が困難だった遠隔地の企業間のコラボレーションも容易になるでしょう。同様に、グローバル展開も促進でき、クラウドを活用した国際分業体制も確立できます。さらに、経済活動以外でも社会インフラの構築にクラウドが貢献するものと期待できます。残念ながら、我が国の行政、医療、教育、農林水産などの分野における、ICT化・システム連携は諸外国に比べて大きく立ち遅れているのが現状です。これらの社会インフラの整備も、クラウドにより効率的に進められるものと期待しています。

コラム「拡大・成長を続けるクラウド市場」

昨年末にクラウドサービスに関する企業ユーザの意向調査を実施しました。それによると、2009年のクラウドサービスの市場規模は約3,900億円で、これに企業のクラウド導入意向をベースに試算すると2015年には約1兆8,000億円へ成長するものと予測されます。さらに行政、医療、教育、農林水産業等におけるクラウドサービスの普及や、スマート・クラウド基盤の構築等の新市場開拓により、更に4,000億円から5,000億円程度の拡大が見込まれるところであり、それらを上積みすると、2.2~2.3兆円規模になります。本研究会では引き続き市場規模について検討を深めていく予定です。

クラウドを利用している、または利用意向がある企業は、全体で大企業が36.0%、中小企業では18.2%という結果でした。利用の内訳は、サーバ利用をはじめ情報共有、電子メール、ファイル保管など、情報系システムでの利用意向が強く、スケーラビリティ(拡張性)への期待が高いのが大きな特徴です。また、導入した企業の約8割が満足していると回答し、とりわけ、コスト面での優位性、システム変更などへのフレキシビリティ、サービスの信頼性が高評価でした。反対に不満とする回答では、サービスの利便性が不十分であることやセキュリティに対する不満などが多く、行政に対してもセキュリティ向上への取り組みやクラウドの理解促進に向けた取り組みを求める企業が多くありました。

アンケート結果を踏まえ、利用する企業のICTリテラシーの向上を図り、クラウドサービスの利用者の利便性・安全性を高めるための取り組みが必要であると考えています。スマート・クラウド研究会では、こうした観点から「クラウドサービスに関するモデル契約約款」や「消費者向けクラウドサービス利用ガイドライン」の策定を進める必要があるとの指摘がなされています。政府としても、公的支援などを通して、クラウドサービスを安心・安全に利用できる環境整備や、国際的なコンセンサスづくりを進める必要があると考えています。

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