大口 敬 氏
GPSを活用したカーナビ、ETC、そしてバスなどの位置情報発信サービス――私たちにとって欠かせない「交通」にも、ICTを活用したイノベーションの波が押し寄せている。交通工学・道路工学の最前線では、ICTとの積極的な融合により、まったく新しい交通システムが姿を現しつつある。交通システムにおけるICTの活用状況、そして未来像はどのようなものなのだろうか。首都大学東京 都市環境学部の大口敬教授にナビゲートしていただきます。
(※この取材は2010年5月18日に行われたものです。記事はその当時の経済・技術状況を反映したものです。)
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| 大口 敬
Takashi Oguchi 1964年東京生まれ。1993年東京大学大学院工学系研究科土木工学専攻博士課程修了。同年、日産自動車総合研究所交通研究所入所。1995年東京都立大学工学部土木工学科講師。2000年に同大学院工学研究科助教授。2005年、首都大学東京(同年より校名変更)大学院都市環境科学研究科准教授。2007年より現職。東京大学生産技術研究所研究員。主な著作に『読んで学ぶ交通工学・交通計画』(共著・理工図書)『改訂 交通信号の手引』( 編集幹事)『交通渋滞徹底解剖』( 編著・前著ともに丸善)『コンパクトシティ再考』( 共著・学芸出版社)など。 |
高度経済成長期から近年までは、自動車社会が伸展してきた時代です。当然、都市計画・交通計画では「大量の交通需要をいかにさばくか」に力点が置かれてきました。しかし、最近では交通インフラの量的な拡大よりも、質的な充実に主眼が置かれる時代になってきているのです。そこで見逃せないのが、ICTの積極的な導入・活用です。
交通工学・交通計画の分野では、90年代初頭からITS(高度道路交通システム)(*1) が重要なキーワードになってきました。1993年からITS世界会議が毎年開催されており、日本・アメリカ・ヨーロッパを中心として、様々な技術が開発されています。日本では、VICS・ETCがITS開発の典型的な成果例です。私が専攻している交通工学・道路工学に絞ってみても、ICTの活用によって交通調査の効率・精度が飛躍的に高まっています。
これまでの観測・調査というと、信号などの特定箇所にセンサーを設置し、そのスポットを通過する自動車の台数・スピードを観測するという手法を取っていました。これは、絶えず流れ続ける車の流れを、ところどころの点で観測するようなものです。当然、空間的・時系列的な観点から交通流を把握することはかないません。その結果、混雑でどこでどれだけ旅行時間が要するか分かりませんし、センサーが無い場所では交通状況はまったく分かりません。
しかし、安定した高速モバイル通信のインフラが整備され、さらにセンサー・モニタリング技術、画像処理などの技術が目覚ましく発達し、一台一台の車の流れをトレースしていくような、新しいタイプの計測が可能になってきました。これは、リアルタイムな計測に限りません。自動車の1日の動きをトレースし、1日分をストック情報として記録し、データベース化していくことができます。ギガ単位のデータをスピーディーに情報処理できるようになり、自動車の交通量が集中する時間帯はどこなのか、どのルートがどの時間帯に混むのかを突きとめる――きめ細かい交通流の把握が可能になってきているのです。
このように、多様な計測技術で得られるデータから、交通流の状態をリアルタイムに把握し、運用に役立つ情報を抽出し、都市計画・交通計画に活かすことができます。伝統的な交通観測から築き上げられてきた学問をベースに、最新ICTをフルに活用することで、まったく新しい理論が立ち上げられていく。交通工学というジャンルには、そんなダイナミックな時代が到来しているのです。
【用語解説】