大口 敬 氏 (※この取材は2010年5月18日に行われたものです。記事はその当時の経済・技術状況を反映したものです。)
ここまでご説明してきたように、見えづらかった交通流をICTによって可視化していくことには大きな意義があると思います。それは研究分野にとどまらず、一般の利用者にも大きな恩恵をもたらすものです。
たとえば、ETC・VICSに代表されるように、多くのシステムが行政主導で開発されてきました。しかし、私は民間がリードするICTシステムの開発に大きな将来性を感じています。インターネットによる安価で高速な通信インフラが充実してきていますし、モバイル通信も多彩な広がりを見せています。位置情報・移動情報をフュージョン(融合)させながら、これまでになかったまったく新しいサービス・ソフトウェアが生まれていくことでしょう
近年、都市部の無制限な自動車利用は渋滞防止や交通安全の観点からだけではなく、環境面からも望ましくないと考えられるようになっています。
そのため、地下鉄・私鉄などの高速鉄道、バスなどの公共交通が充実する都市部では、ICTによって公共交通システムを柔軟に活用していこうとする考え方が注目されています。
公共交通システムの中でも渋滞の影響を受けやすく、定時運行の信頼性が低かったバスにおいてもしかり。ITS技術の活用によってバスの運行を優先させる信号制御、あるいはリアルタイムの運行情報を利用者に通知するサービスも各所で始まっています。
このように、様々なトライアルが試みられ、それが官・民双方で活用し合えるようになれば、必然的に市場も活性化していく、と私は考えています。明るい交通システムの未来像は、このような多角的・融合的な取り組みの中から見えてくるのではないでしょうか。
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ヨーロッパでは、都市部の混雑する局面を避けるため、自動車の利用に追加料金を徴収する「混雑課金」を導入する国も増えてきています。代表例が、市内への進入に課金するロンドンのシステムです。「混雑してスピードが落ちるルートはサービスが低下しているのだから、むしろ安くなるのでは?」という考え方をしてしまいがちですよね。 しかし、「人気商品は割高になる」という経済原理で考えると、これはとりたてて不思議なことではありません。混雑するほど高い人気を呼んでいるサービスなのだから、高い価値がつけられるのは当然だ、という考え方も成立するのです。交通工学と交通経済学の理論に基づいて試算すると、「混雑課金」によって交通渋滞を一掃することも可能だ、という研究もあるぐらいなのです。 この他、ドイツではGPS車載器の活用によって大型トラックのみ課金するなど、GPSを柔軟に活用する施策が導入されています。 「混雑課金」というシステムは、日本においても検討する価値があると考えられています。日本ではGPS携帯電話の普及などによって、商業利用が非常に活発になってきていますが、交通システムにおいては、GPSとマッチングさせたサービス、施策はまだ研究の余地があるのではないでしょうか。 そもそも、キャパシティを超えた交通量が殺到し、ボトルネックと呼ばれる、最も狭小なスポットを通りきれずにあふれた交通が溜まる――この状態を交通渋滞と言います。 しかし、この渋滞は「前の車の減速よりも大きく減速してしまう」「トンネルの入り口付近で、明暗差や閉塞感から無意識に減速してしまう」といった、私たち特有の心理も渋滞を発生させる原因のひとつになるのです。 このため、「一定速度で自動走行し、前方車との車間距離を適切に保つ」オートクルーズ(自動操縦)技術も研究が進められています。これは適切な車間距離を確保できることから、交通安全対策にもつながります。将来的には、このような交通心理学・人間工学とICTが融合し、まったく未来的なサービスが利用できるようになるかもしれませんね。 |