岩上 由高 氏 (※この取材は2011年8月4日に行われたものです。記事はその当時の経済・技術状況を反映したものです。)
今後のクラウド市場に関しては、2012年以降PaaSの大きな伸びが予測されます。これまで、PaaSの開発は新たなノウハウの習得が必要で、開発するSIerにとってもやや敷居が高いものでした。また、そのコストが上乗せされるため、ユーザー側に安価に提供するものではなかったのです。しかし現在は、自社で運用していた情報処理システムをクラウド上にそのまま移行できる仕組みが整備されつつあります。Windows Azure Platformにおける「VM Role(*3)」などがその具体例ですが、これらの取り組みが進むことによって、IaaSとPaaSの差は曖昧なものになるでしょう。近い将来IaaSとPaaSは融合していくのではないか、と私は考えています。
そして、今後のクラウドの普及で見逃せないのが東日本大震災の影響です。これまで述べてきたように、IaaSやPaaSについて、ICT企業は導入事例とノウハウを蓄積し、市場拡大の下地を作ってきました。これらの地道な取り組みが震災によって遅延・停滞する可能性もあり、私たちも中長期的な影響を注視しているところです。
クラウドと関連づけて論じられるのが、突発的災害でも事業の継続を図るBCP(事業継続計画=Business ContinuityPlan)です。これは、以前から企業の重要な経営課題として挙げられており、たとえば2007年の新潟県中越沖地震直後は、北陸地方でBCPニーズが一時的に急上昇したこともありました。
今回の震災で首都圏では膨大な帰宅困難者が発生しました。このことから、サーバーがいくら堅牢なデータセンターにあっても、交通網の寸断で社員が出社できなければ、事業継続はできません。事業を確実に継続させるためには、在宅勤務の仕組み作りなど、いろいろなパーツが必要なのです。
震災後のリサーチでは、企業からは「災害時のみならず、通常業務においても業績改善やコスト削減の効果を得るようにしたい」という声が多く寄せられました。さらなる市場拡大を前に、クラウドの真価をあらためて見直し、訴求していくことが求められているのです。
【用語解説】
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ここでは、クラウド導入に際しての各論を紹介しましょう。ユーザー企業の多くは、基幹系システムや情報系システムなど、「目に見えるシステム」のSaaS化にプライオリティを置いています。しかし、「カスタマイズされた販売管理システムを移行することが困難」「使い慣れたグループウェアが変わると社員がついていけない」といった課題が立ちはだかり、思ったようなコスト削減効果を得られていないのが現実です。これらの課題解決には、IaaSを視野に入れたオプションの拡大、業種・業態に特化したサービスの提案などが挙げられます。個々の施策については、本文で言及したとおりです。 他方で、ユーザーの目に見えない裏方、運用管理と今まで言われていた部分のクラウド化も進みつつあります。例えば、「セキュリティ系」「運用管理系」「データ保存系」などのシステムは、「独自カスタマイズの問題」「システム乗り換えへの社員の抵抗感」の影響が小さく、運用コストの軽減も期待できます。これら、運用管理系システムのSaaSを、私は「GUIのないSaaS」と呼んでいます。 NTTコミュニケーションズの「Bizストレージ」(ファイルサーバー機能をVPNとの直結で利用できる超大容量ファイルサーバー/アウトソーシングサービス)が代表的なサービスです。SaaSといっても、ユーザーがデータをチェック、入力するGUI(Graphical User Interface)が必要なものばかりではありません。「GUIのないSaaS」は、システム管理用の設定画面はあるものの、ユーザーがGUIを通して運用を行うことはありません。 「GUIのないSaaS」は、SaaSへの移行が比較的容易な点も見逃せません。ユーザー企業にとって負担になりがちな「セキュリティ系」「運用管理系」「データ保存系」などの業務をSaaSに任せられれば、それは大きなコスト削減につながるでしょう。このような「GUIのないSaaS」の展開、訴求により、SaaS活用の選択肢がいっそう広がるのは間違いないと考えています。 |
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